経済的正義

経済

盗人が来るのは、盗んだり、屠ったり、滅ぼしたりするためにほかならない。わたしが来
たのは、羊が命を受けるため、しかも豊かに受けるためである。

「ヨハネによる福音書」10章10節

経済大国は、人間の尊厳や環境への影響はいうまでもなく、背景というものを考慮しない
投機や金融上の利益追求を優先させながら、現今の世界の構造を正当化し続けます。こう
したことから、環境の悪化と、人間とその倫理の退廃とが密接にかかわっていることが明
らかにされます。

教皇フランシスコ 回勅『ラウダート・シ』56

貧困の構造的原因の解決は喫緊の必要時です。[中略]市場と金融投機の絶対的自律性を放
棄し、格差を生む構造的原因に敢然と立ち向かうことで、貧しい人々の問題が抜本的に解
決されないかぎりは、世界が抱える問題は何一つ解決されません。[中略]人間一人ひとり
の人格の尊厳と共通善の追求が、あらゆる経済政策を形成すべき関心事なのです。

教皇フランシスコ 使徒的勧告『福音の喜び』202-203
目次

経済的正義

聖コロンバン会はこの数十年、経済的不公正が神の国の構築の妨げであることをよく認識
している。経済的貧困は人間の尊厳に対する暴力のかたちのひとつであり、不平等と必然
的に結びついている。少数の人々の経済的繁栄は、多数の人々のより深刻な貧困問題なの
である。このように、経済的安定ならびに良質生活必需品の入手手段が不公平に分配され
ていることは、特に先住民共同体や、女性とこどもたち、農民、低賃金労働者、移民の生
活においてよくわかる。聖コロンバン会の規約では、「われわれは全世界と地域の貧困問題
に対する道徳的挑戦を認識し、この認識によってわれわれの考え方すべてを方向付けるも
のとする…それは貧しい者たちの現実問題への参与、不公正に対する奮闘を支持するもの
である。」われわれのアイデンティティの中心にあるこの認識が、聖コロンバン会の長年の
宣教活動を形作ってきた。

今日の聖コロンバン会の活動では、不正なグローバル経済構造・政策がもたらす困窮、困
難を証ししている。多くの人々、特に発展途上国に属する人々にとって、貧困ならびにグ
ローバル経済からの排除は死活問題となっている。宣教活動をする者として、「あらゆる形
の不正に抗する預言者の声となり、諸民族の変容とキリスト者的解放のため人々が協力す
るネットワークをつなぐものとなる」ようわれわれは召出されている。カトリック教会の
社会教説綱要に述べるように、世界経済があらゆる被造物に対してのケアと尊重をもって、
貧しく弱い人々に仕えるべきであるとわれわれは信じる。「物資はあらゆる場所にゆきわた
るべきという原則は、道徳的価値観から生じる経済構想を展開するための招きである。そ
れは公平で連帯する世界をもたらすために、物資がどこから来て何を目的とするかを人々
に見失わせない道徳的価値観である。」

聖コロンバン会の懸念

グローバル貿易と投資政策

聖コロンバン会は投資政策など自由貿易協定を締結している多くの国々で生活、奉仕して
いる。こうした協定はいかに少数の個人や政府、企業に偏って利益をもたらし、その一方
で大多数の人々に生活のため苦労させるままである。現在の経済モデルは、すべての被造
物に対する連帯・正義・尊厳・尊重という福音的価値観を反映していない。貿易・投資協
定はしばしば交渉過程での透明性に欠け、人的損害をもたらすことがあるので、その評価
にあたっては貧困層及びあらゆる被造物にもたらされる影響を考慮しなければならない。
こうした協定は多国籍企業利益のためであり、政府が労働者の権利擁護や環境保護に動く
ことを困難にする。その結果、このような貿易協定や政策はまともな雇用ならびに飲料水、
適切な住宅、教育や基本的医療などの不可欠なサービスを入手困難にしてしまうため、人々
の移住を駆立て、貧困状態を悪化させる。

負債と開発

数十年ものあいだ、発展途上国は国際開発金融機関[IFI:世界銀行など、国際開発の
ため複数国によって設立される金融機関]によって負わされた不当で重荷となる債務、し
ばしば開発という名のもとに蓄積・維持させられている。こうした負債は腐敗した政府や
軍事政権のもとで生じることが多かった。IFIを通して実施された民営化や緊縮の政策
は経済的貧困層を損ね、富裕層に益をもたらす。搾取的な融資は個人と政府の両方のレベ
ルで人々や国々をさらに貧困へと押しやり、教育、医療、家族の住居など人間としての基
本的ニーズを用意できないままにしている。また近年のいわゆるハゲタカ・ファンド出現
は重大な懸念である。この債務方式では民間投資会社に経済的に貧しい国々に対する返済
条件を決定し、返済条件を満たさない政府を訴える力が与えられるからである。われわれ
は真の開発が『ラウダート・シ』に反映されるような、各人の充満とあらゆる地球の生物
を尊重する形で到来するものと信じる。フランシスコ教皇はこの回勅の中で「過剰消費文
化」について述べ、開発の新しい理解へと招いている。

しかし、生産と消費ペースの減少は別の形の進歩と開発を引き起こしことがある
という確信のうちにわれわれは成長する必要がある。天然資源の持続可能な利用
を促進する取組みはお金の無駄遣いではなく、むしろ中期的に他の経済的恩恵を
準備できる投資となる。より大きな見地からすれば、環境への影響を少なくした、
多様で革新的な生産形式が非常に有益になりうることがわかるだろう。人間の創
造力とその進歩の理想を抑え込むのではなく、その力をあたらしい道筋にむかわ
せる、種々の可能性に目を開くことが大切である。

貧困と移住

移住の権利は基本的人権のひとつで、人間が自分自身と家族の幸福を守り、もたらすため
にある。聖コロンバン会は経済的に貧しく、世界から取り残された共同体に奉仕している
が、そのような共同体は社会状況と環境問題がからみあい、経済的安定と安全を求めて人々
に故郷を離れさせ移住へかりたてる。食料不安、失業、低賃金、まともな雇用の不足が受
け入れ国での雇用機会の見通しとあいまって、移住の強い動機となる。グローバル経済政
策も深刻な不平等と抑圧的労働条件を引き起こし、故郷を捨てさせる原因となることがあ
る。不正なグローバル経済システムが、いかに難民・移住者とその家族にとって暴力的な
状況をもたらし、人身売買の犠牲者を生み出すかわれわれにはわかっている。

食糧と農業

食糧と食の主権―-“食の主権”とは、みずからの食の方針を決める権利で、基本的人権の
ひとつである。しかし世界の貿易協定に農業を含めることで何億もの人々の生活様式が大
幅に変更されてしまった。これは世界中の小規模農業者、それも特に発展途上国の農家に
不利な影響をもたらした。農作業は世界の貧困層の多くにとって生活するための方法であ
るのに、農産物取引は市場を統制したり歪めることもある多国籍企業によって支配されて
いる。大部分の農業分野は少数企業の手中にあり、貿易交渉や政策立案の際に小規模農家
の意見が反映されることはほとんど、あるいはまったくない。そのため、食の主権、市場
参入、まっとうな生計手段へのアクセス、農村地方開発に関する小規模農家の権利が弱め
られる。開発途上国の女性の三分の二以上は農業従事者であるため、不公平な貿易政策の
影響を特に受ける。政策設定時に女性の重要度は無視されることが多い。

遺伝子組み換え生物と特許

多くの共同体や国々は遺伝子組み換え生物(GMOs)の影響を受けている。それは特に聖コ
ロンバン会の懸念とする問題である。世界銀行などの国際開発金融機関、ならびに米国の
ような国々は遺伝子組み換え作物の利用を奨励するが、そうした作物は企業が特許をもち、
権利を有している。特許があることで農家は自家利用の種子を残しておくことができない。
それは小規模農家が何百年も行っていたことだった。さらに農家は毎年新しい種子を購入
するための借金を背負わされる。そうしなければ農業をやめるよう追い込まれる。遺伝子
組み換え作物の多くは殺虫剤・除草剤をより多く使い、そうした農薬の中には癌や生殖能
力に関わる問題や学習・発達障害と結び付けられるものもある。食物栽培に長年利用され
た土地が現在では GMO 基盤のバイオ燃料育成に利用されているが、それがエネルギー依
存の間違った解決策であるとわれわれは考える。バイオ燃料は健康的な食物生産の場を奪
うだけでなく、ほとんどのバイオ燃料生産が従来の化石燃料と同量の温室効果ガスを放出
するからである。

環境と文化の破壊

国際的な貿易と投資の政策はたいてい高収益企業に恩恵があるように計画され、貧しい共
同体や自然界にもたらす結果や影響にはほとんど関心が払われない。例えば、採掘産業[石
炭・石油・金属など]は自由貿易協定の主要な構成要素であるが、石油、ガス、鉱物の採
取を通して地域社会や地球の生物に長期にわたる損害を負わせる。大規模鉱業や木材伐採
業、農業関連企業は、生物多様性ならびに健全な生態系、農耕可能な先祖伝来の農地、文
化的伝統をも損ねている。回勅『ラウダート・シ』(49)で教皇フランシスコが、「地球
の叫びと貧しい者たちの叫びの双方が聞こえるように、環境についての議論において正義
の問題を統合するよう」招いていることにわれわれは特に注意を払っている。

軍事力拡張の動き

軍事力は防衛と安全保障のため必要として推進され、大多数の国家は武力闘争を外交政策
上、容認できる手段とみなしている。われわれは武力闘争を軍事的にも経済的にも危険な
企てとみる。世界中で軍隊の駐留や存在が展開され、軍需産業を拡大することは、聖コロ
ンバン会が育てようとする平和の文化を蝕むものである。何十億ドルもの金額を費やして、
さらに致死的で精緻な殺傷と環境破壊の方法が研究開発され、宇宙空間への進出まで対象
となる。経済的現実が軍事力拡張の文化に貢献、これを促進することになり、そこから多
くの人々が直接的・間接的に利益を享受している。

聖コロンバン会の対応

公平で公正な貿易取引

聖コロンバン会は経済的に貧しく、社会から取り残された地域社会に奉仕している。その
ような地域社会の多くでは、有機農業や持続可能な開発実践による、従来と異なる生産方
法を展開している。フィリピンでは聖コロンバン会が創立したいくつかのプロジェクトや
組織があり、経済的正義のために活動している。PREDAフェアトレード・プロジェク
トはその一例で、性的虐待や人身売買の被害を生き延びた女性やこどもたちにまっとうな
仕事を用意している。その他のネグロス・ナイン・ファウンデーションとスバネン・クラ
フツ・プロジェクトでは、土着地域社会の文化的精神的伝統や慣習を尊重し、守るような
意義ある仕事を用意する。

同様に聖コロンバン会は経済的に貧しい地域社会の教育とヘルスケアの必要性に取組み、
世界中で学校や診療所を創設してきた。多くの地域でこうした学校や診療所は異宗教間の
対話や平和構築のための場所となっている。そこはすべての宗教の人々に開放されている
からである。パキスタンで聖コロンバン会が創設した診療所と学校は、地域社会でイスラ
ム教、キリスト教、ヒンズー教の信者家族たちがまとまるのに役立っている。そこで人々
はそれまでの型にはまった考えや差別を打ち破るような関係を築いている。聖コロンバン
会がペルーで設立した数か所の施設では、身体・知能・情緒面で特別なケアを要するこど
もたちを世話し、もうひとつの施設はエイズの大人たちをケアする。ミャンマーでは聖コ
ロンバン会シスターたちがエイズの人々のための在宅ケア・プログラムを開発し、遠隔地
の人々が医療を受けるために滞在するホープ・センターを設立した。

教育および変革への提言活動

われわれは、暴力や経済・環境面での不公正の根本原因に取り組む統合的方策の一環とし
て、構造変革のため働くことに尽力する。われわれにはその構造的原因がわかっており、
軍事政策、自由貿易、環境の過剰消費が地域社会と自然界におよぼす体系的影響を理解し
ている。世界中のコロンバン・ミッション・センターは経済、社会、環境での破壊的行為
を生む政策を推進する諸国政府に立ち向かう活動に従事している。一例として、聖コロン
バン会は長年にわたり、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)、TTIP(大西洋横断
貿易投資パートナーシップ協定)として知られる国際的な自由貿易協定に反対の立場であ
る。この二つの協定はともに交渉過程の透明性が欠け、企業利益に役立つ一方、人々や被
造物全体の必要性や声を無視するからである。

負債の帳消し

聖コロンバン会は1980年代の負債帳消しへの世界的な呼びかけとともに始まった、経
済的正義への初期の国際キャンペーンにおいて重要な役割を果たした。国際的なジュビリ
ー[ヨベルの年]ネットワークの設立にも、発展途上国・先進国の双方で関わった。負債
削減・帳消しの達成にはこれまで多くの進展があったが、諸国政府が数十年も前からの不
正な負債の返済に縛られていることが今日でもわかる。そこでわれわれは貧しい国々の負
債をすべて帳消しにするよう呼びかけ続けている。同様に、事業民営化の義務付けや将来
の不公平な借金を貧しい国々に負わせる国際開発金融機関の政策や実践を排斥している。

聖コロンバン会はまた、富裕な先進工業国の過剰消費によって、環境的負債が発展途上国
で特に発生していることを認識する。発展途上国からは世界の天然資源の多くが採取され
ている。こうした富裕国は気候変動などの危機を緩和し、対策のための代価を支払ういっ
そう大きな責任がある。教皇フランシスコは回勅『ラウダート・シ』の中で環境的負債に
ついて述べている。「先進国はこの負債支払いを助けるべきで、それには再生不可能なエネ
ルギーの消費を著しく制限すること、そして貧しい国々を支援して持続可能な開発の政策
と計画を維持させることである。」

社会的・環境的に責任ある投資

聖コロンバン会は、貧しい者たちおよび搾取される地球へのコミットメントを本会のアイ
デンティティの基本部分とするので、連帯することと世話役の務めへとわれわれは召出さ
れている。聖コロンバン会の規約でこのコミットメントは以下のように表現される。

神の国があらゆる諸国民のいのちと文化に浸透するよう奮励努力しながら、われ
われは普遍的な救いのメッセージを、証しと司牧、貧しい者たちとの連帯の立場
からの対話を通して宣言する。

聖コロンバン会の規約

われわれはみずからの義務として、世界の資源の責任ある利用において他の人々
と行動を共にすることを心に留める。われわれの生活様式、資金の利用と投資は
社会正義の要求によって導かれる。

聖コロンバン会の規約

われわれは、慎重に見積られ、将来の負担に必要となる金額を超えた資金を蓄えようとは
しない。われわれが重視するのはこの資金が社会的、環境的に責任ある方法で投資される
べきことである。われわれの投資方針は聖コロンバン会の宣教カリスマの重要な側面であ
り、ビジネス社会でキリストの証しを提供するものである。本会の施策「社会的・環境的
責任ある投資(SRI)」には、ポジティブ・インパクト[社会・環境面で肯定的影響ある]
投資、否定的・回避的(投資対象)選抜、企業提唱活動、投資の引き揚げ、ネットワーキ
ングなどが実施項目に含まれる。

ネットワーキングと動員活動

聖コロンバン会は平和と関連問題に取り組む多くの国内・国際ネットワーク、パートナー
シップに参与している。

オーストラリア・ニュージーランド
  • ジュビリー・オーストラリア
  • オーストラリア・フェアトレード・インべストメント・ネットワーク
イギリス
  • 企業責任のためのエキュメニカル・カウンセル
  • EIRIS
  • ジュビリーUK
  • グローバル・ジャスタス・ナウ
  • ニュー・エコノミックス・ファウンデーション
  • パックス・クリスティUK
チリ
  • エコノミア・ソリダリア
エコノミア・ソリダリア
  • デット・アンド・ディベロップメント・コオリション
米国
  • フェイス・エコノミー・エコロジー・アンド・トランスフォーメーション・ネットワーク
  • 企業責任のためのインターフェイス・センター
  • 貿易と投資のためのインターフェイス・ワーキング・グループ
  • ジュビリーUSA

コロンバン・センターおよび経済的公正の提唱、教育、プロジェクトのための組織

オーストラリア・ニュージーランド
  • コロンバン・ピース・エコロジー・アンド・ジャスタス・センター
チリ
  • チェントロ・ミシオネロ・サン・コルンバノ
ペルー
  • チェントロ・コルンバノ・デ・ミシオネロス
フィリピン
  • ネグロス・ナイン・ファウンデーション
  • PREDA
  • スバネン・クラフツ・プロジェクト
米国

コロンバン・センター・フォー・アドヴォカシー・アンド・アウトリーチ

詳細紹介先:
エイミー・ウーラム・エチェヴェリア
正義・平和・被造物保全のための国際コーディネーター
amywe@columban.org
1.301.503.9222/skype awe0106
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