わたしは乾いている地に水を注ぎ/乾いた土地に流れを与える。あなたの子孫にわたしの
イザヤ書 44章3節
霊を注ぎ/あなたの末にわたしの祝福を与える。
全物質界は、神の愛を、わたしたちへの神の限りなき愛の思いを語っています。土壌、水、
教皇フランシスコ 回勅『ラウダート・シ』84
山々、つまりあらゆるものは、いわば神の愛撫です。
物資はあらゆる場所にゆきわたるべきという原則は、水にも当然あてはまる。水は聖書の
教会の社会教説綱要[2004]484
中で浄めと命の象徴として考えられている。
聖コロンバン会の召出しは、社会から取り残された人々と、搾取された地球を癒し、和解
聖コロンバン会総会 2012
し、橋を架け、対話と連帯を通して相互の理解を生むことである。
水
水は霊的、倫理的、象徴的、文化的意味合いがあり、神のこどもとしてのわたしたちのア
イデンティティに不可欠なものである。「わたしが与える水を飲む者は決して渇かない。わ
たしが与える水はその人の内で泉となり、永遠の命に至る水がわき出る。」(ヨハネによる
福音書4章14節)人間のふるまいがいかに神の被造物、特に水に対して影響するか、わ
れわれは注意して観察している。われわれの経験ならびに聖書、カトリック教会の社会教
説、そして科学の考え方は、あらゆる被造物との正しい関係を回復する方法を求めるよう
われわれを駆立てる。
被造物を中心に考える神学から得られた洞察の結果、人間のふるまい方にはあらゆる被造
物、特に水との関係も含めなければならないことをわれわれは認識している。あらゆる被
造物において水のもつ絶対不可欠で神聖な場所を認めながら、個人と組織の双方の変化に
つながる、進行中の生態系的回心のためわれわれは尽力する。
聖コロンバン会の懸念
水は人権である
カトリック教会によれば、水を得る権利はすべての人権と同様に、人間の尊厳に基盤があ
るので、単なる経済的価値とみなすような量的評価はまったくふさわしくない。水がなけ
れば生命は脅かされる。であるから安全な飲料水を得る権利は普遍的・絶対的権利のひと
つである。しかし水を利用できる権利や水質が不十分であると、貧しい社会、女性やこど
もたちにおいて特に、健康・栄養の問題、衛生面に影響が出ることになる。
一例を挙げると、パキスタンで聖コロンバン会が委託した、手動ポンプを使って飲料・料
理用の地下水を汲み上げる村落での水質試験では、リン酸塩・硫酸塩・ヒ素の検出量が欧
州連合[EU]推奨安全レベルの4-8倍だった。
人間が摂取するための水を入手できる機会は減少しながら、鉱業や農業関連などの産業に
よる水利用や水汚染が増加している。水の利用はあらゆる段階において、持続可能な将来
のための計画を考慮しなければならない。この考え方はいわゆる「バーチャル・ウォータ
ー(仮想水)」として知られている。採取や生産のため大量の水を必要とする物資・品物の
例として挙げられるのは、鉱物、金属、天然ガス、食肉、大豆、オイルシード[油糧種子]、
木綿、コメ、コーヒー、ココアなどである。あらゆる被造物の健康と幸福のために、水質
や水利用機会の問題でバランスを回復すること、それには生活様式、公共政策、企業活動
での変化が必要である。
気候変動と水
世界の水危機と気候変動は本質的に結びついている。高温傾向によって内陸の氷河系が溶
けている。そのため中短期で河川・湖への水の流入が増加しているが、氷河が溶けてしま
ったらそれも止む。河川はいっそう汚染や枯渇が進み、小規模農業や自給自足生産のため
の水利用が危うくなる。亜熱帯地方では気候変動によって、すでに乾燥した地域の降雨量
減少につながる可能性がある。全体的影響としては、極端な洪水や旱魃がいっそう頻繁に
なるよう水循環が激化する。
われわれは気候変動と水の関係を直接体験している。2013年フィリピンに襲来したハ
イヤン台風は、気候変動によって以前より強力な台風が発生し、その発生も頻繁になって
いることを示す一例である。そのため家屋や生活が破壊され、飲料水を得るため被災者は
国際的な救援活動にますます依存している。気候変動の結果としてフィジーで聖コロンバ
ン会が懸念するのは海水面の上昇、塩水化である。ペルーでは、リマなど都市の水利用の
長期的展望に氷河融解の及ぼす影響が見える。
平和への脅威
水は、中東など世界の紛争地域で平和を打ち立て維持する上での戦略的要因のひとつであ
る。例えば、二つないしそれ以上の国々を流域とする約260の河川のうち、おのおのの
流域国が当該河川から水を得る権利を規制する条約に署名しているケースはごく少数であ
る。その結果、隣接国間の水資源をめぐる争いは紛争や暴力に発展しうる。水不足は食糧
生産とエネルギー供給の脅威となるので、貧困問題や社会の緊張に苦闘する政府のストレ
スをさらに増やしている。
同様に、軍備拡張や軍事基地は武器製造や戦闘技術に利用するため、資源採掘を通して水
の供給を要求する。聖コロンバン会は韓国のカトリック司教たちや他の信仰の活動家たち
と力を合わせ、チェジュ[済州]島での軍事基地設置に抗議している。チェジュ島は「平
和の島」として知られている。この基地の建設と運用によって、島の原初の美しい環境が
破壊され、その真水や海水も汚染されている。
経済のグローバル化と水道事業の民営化
水道事業の民営化、水の商品化、水の取引・輸出は、カトリック教会の掲げる原則である、
物資はあらゆる場所にゆきわたるべきであること、ならびに被造物のケアに違反するとみ
なされる。水道事業の民営化は、人間とあらゆる生き物の権利と必要性をしばしば軽んず
る。なぜなら環境は商業目的上考慮すべき要素に入らないからである。水道事業民営化の
結果、貧困層の水入手は困難になり、極端に高い関税、水質の劣化なども引き起こしてい
る。
無制限の成長と自由貿易という現在主流である経済構想は、水不足を解決する策の探求と
相容れない。国際的な貿易政策は水を私的所有物として規定するため、水の不公平な分配
につながることが多い。グローバルな取引と投資協定によって、水は投資家および民間セ
クターの利益になるよう仕立てられる。世界銀行と地域の金融機関が民営化のための融資
条件を設定する。増大する回収費用は、支払う余裕の最もない人々に請求する水道料金に
転嫁されることが多い。
聖コロンバン会の対応
地域社会との連帯
聖コロンバン会は、経済・環境政策および施策により飲料水入手が制限されている地域社
会で生活し活動している。そうした地域社会支援は、教育・動員活動および聖コロンバン
会の国際共同体とつながるなど、提唱活動ほか連帯の取組みを通じて行っている。例えば
フィリピンのネグロス・ナイン・ファウンデーションという聖コロンバン会プロジェクト
は地域の水供給を保護し、植林を行い、絶滅の危機にある樹木、鳥類、動物の在来種[そ
の地に古来存在する生物種]を回復させることを目的とする。米国とメキシコの国境地域
では聖コロンバン会の支援する「ウォーター・キャプテン」という異教徒間で作る団体が、
経済的に厳しい地域共同体が充分な水供給を得られるよう、地方政府の政策に働きかけて
いる。
変革の提唱活動
われわれは構造変革のための活動に専心している。それは経済・環境面での不正の根本原
因に取り組むための統合戦略の一環である。政府機関、公共政策立案者、企業との対話を
通して、体系的変革に影響を及ぼすよう努め、影響を受ける地域社会が提唱と教育によっ
てみずからの物語を語れるよう力になりたい。米国では、「変革提唱とアウトリーチのため
のコロンバン・センター[Columban Center for Advocacy and Outreach (CCAO)]」が、
水資源を守り、すべての人々が飲料水入手方法を確保できるような国内・国際面の政策を
呼びかけている。そのような政策には「世界のための水」法令(Water for the World Act)
があり、世界的な水プロジェクトのために供与される米国の資金・資源を確実なものにし
ている。
2013年チリの「聖コロンバン会・正義・平和・被造物保全オフィス」は、サンチアゴ
で開催された“水の権利を回復する地球ウィーク行進とカーニヴァル”の企画で主要な役
割をになった。100を超える団体と6000人以上が参加したこの平和な10マイル[約
16km]の行進は、国が水道事業の運営管理をふたたび獲得するよう求めた。水道事業はピ
ノチェト独裁政権時の1981年に民営化されていた。抗議する人たちは水事業の私的所
有を終わらせることと、さらなる環境保護を求めた。
異宗教間の協力
われわれは異なる宗教伝統にあって、水などの環境問題に積極的に関わる人々やグループ
を探し出そうとしている。このような異宗教間ならびにエキュメニカルなパートナーシッ
プはわれわれの努力の有効性、信念、信頼性を高める。オーストラリアで「コロンバン平
和・エコロジー・正義センター[Columban Peace, Ecology and Justice Centre]」の連携
する「フェイス・アンド・エコロジー・ネットワーク(Faith and Ecology Network)」は、
水に関するフォーラムの開催と異宗教者による声明の発表、さらに鉱山事業からシドニー
の水供給を保護する「ウォーク・フォー・ウォーター[Walk for Water]」などの集会運動
に参加してきた。また米国テキサス州エルパソでは当地の聖コロンバン会・宣教センター
で異宗教者による水問題ワークショップも主催、エルパソ異宗教間連合[Interfaith
Alliance of El Paso]が参加した。
信仰の形成と教育
信仰ある人々や共同体がカトリック教会の社会教説を通して社会・環境問題を理解しその
ために行動するよう招くことは、聖コロンバン会の宣教の不可欠な部分である。信仰の形
成は教区、学校、宣教センター、短期的宣教奉仕、インターネット、出版物など多様な状
況の中で行われる。例えば、イギリスではコロンバンJPICが水問題についてのワーク
ショップを数多く開催、そのうち2014年7月「イギリスとウェールズの正義と平和会
議[National Justice and Peace Conference of England and Wales]」におけるワークショ
ップもあった。また聖コロンバン会はチリで「被造物ケアのためのエキュメニカル連合」
のメンバーである。これは水問題を最優先課題のひとつとし、ワークショップ開催、環境
問題の情報紙発行に携わる
社会・環境面で責任ある投資行動(SRI)
宣教会としてのわれわれは託された資源を世界のいのちのために利用するよう求められて
いる。われわれの投資方針は、ビジネス社会においてキリスト者の証しを提供する宣教の
カリスマの重要な一面であると信じる。聖コロンバン会は米国に本拠を置く「企業責任の
ためのインターフェイス[異宗教間]センター」のメンバーであり、イギリスに本部のあ
る「企業責任のためのエキュメニカル・センター」にも参加する。これらは社会的責任あ
る投資・企業責任の提唱にわれわれが広範に関与するための手段となる。
出版/意識を高める活動
インターネットと出版物を通して、聖コロンバン会は批判的思考・行動と祈りに満ちた内
省を促している。
活動例:
- ショーン・マックダナー SSC
- 地球をケアする (1986)
- 地球への情熱 (1994)
- 教会での環境問題活動 (1996)
- なぜ地球の叫びを聞こうとしないのか (2003)
- 水のために死ぬこと (2003)
- いのちの死 (2004)
- 気候変動 (2006)
- フクシマ:核エネルギーの終焉か?(2013)
- チャールズ・ルー SSC
- 御子を輝かせよう-気候変動に対するオーストラリア・カトリックの回答(2013)
- イギリス - フィリピン―鉱山か食物か? 報告書
- http://www.piplinks.org/miningorfood
- この報告は大規模鉱業活動による源流地破壊についてのデータを含む。
- オーストラリア - 四旬節の黙想:地球の恩恵
- 本書には水と海洋についての章が含まれる。
- http://www.columban.org.au/assets/files/pej/columbanmissionthegraceofearth.pdf
聖コロンバン会の被造物に関する誓約は、われわれの宣教師たちへの指針を提供する。水
を大切なものとして扱い、いわゆるウォーター・フットプリント[生産消費活動に関する
水利用量の指標]を削減する。現在のわれわれの環境保護のための回心に対するコミット
メントの一環として行うものである。